2013年4月17日水曜日

第5回空き地歌会 土屋智弘さん5首評


詠草のみで参加された土屋智弘さんの5首評です。
(※詠草のみの方には5首選5首評を歌会前にいただいています。)


A そよ風の裏切りにより花びらは着地するほかなかったんだよ
花びらはもっと飛んでいたかった。自由でいたかった。でも、吹き続けると言っていた風は急に止んでしまい、花びらは地に落ちるしかなかった。前向きで生きて行こうとしていた矢先に、何か梯子をはずされた苦さと悔しさが滲むような歌。「裏切りにより」の「~により」という表現がこなれていないように見えて効いているいると思う。

F 営業が出払った午後事務員のまどろみのなか睡蓮ひらく
のんびりした暖かい風景が浮かぶ安心できる歌。つかの間の非日常を感じるの中で、ゆるやかに時間が過ぎ、ゆるやかに花が開いて行く夢か現かわからない様子が心地よい。また、睡蓮という言葉で仏教的な雰囲気を味わわせてくれた点が個人的には好きである。

I 咲くことのない花ですとわたされた石をあなたは窓辺にかざる
咲くことはないと言われても、渡された人は咲くに違いないと信じているに違いない。信じているからこそ窓際に飾ったのである。そしてその窓際は日の当たる窓際だろう。希望と信念をもって何かに向き合おうとする心の強さ、あるいは渡した人と受け取った人との信頼の厚さを感じる。

J 花に降る雨の静けさきらきらといのちほどけてゆくさくらばな
花が開くのを促す催花雨を思わせる歌。「いのちほどく」は開花を表現したものだと読んだが、静かな雨に打たれて花開いてゆく様子を、抑えた表現に委ねていると思う。また、三句目以降すべてがひらがな表記であるのも、時の流れのゆるやかさを感じさせる。

O ほろよいのお花畑で落ち合ってこのまま二人どこか消えたい
花見の場面のように読んだ。にぎやかに楽しく花を愛でた後、その心地よいままでふたりでどこかへ消えて行きたいという素直な歌である。心地よさを少しでも長く味わいたいという望みがあふれている。


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