2012年12月12日水曜日

第4回空き地歌会 スピンオフ詠草 飯田彩乃全首評

1 応募した覚えはないが抽選の結果わたしが生まれこのざま
生命の誕生を抽選と言いきるシニカルさ。ざらっとした手触りのまま結句までもっていった巧い歌だと思いました。

2 この街を結晶にして音もなくすべっていけば きれいな朝日
街を結晶にする、という発想が美しいと思います。なんだろう、「いけば」と「朝」のあたりでちょっと穂村弘を連想しました。
ただ、きれいな朝日と締めるのはどうなんでしょう。四句目までで朝日が出たらきれいだろうと想像はつくので、きれいと言う必要はあったかな、と思います。

3 結局は知らないままに卒業する人と部室を掃除する春
部室、という場所がいいですね。同じ部活なのでクラスメート以上の関わりはあったかもしれないのに、知らないという事実が先に立ってしまう。
知らないままに、という二句目が茫洋としていますが、きっと何を知らないのかも知らないのだろうなと思います。

4 街をゆく人々はみな風景で自分のために結ぶ靴紐
若さに溢れた歌だと思いました。人はこの視座からやがて風景に埋没していくのでしょうが、それに抗うように主体が靴紐を結ぶという行動をとるのがとても良いと思います。街をゆく人々の動、立ち止まる自分の静の対比も鮮やかです。
挑戦的で、好きな歌です。

5 「結婚と携帯変えたお知らせです」おめでとうさえ届きはしない
その二つのお知らせを一緒にする雑さにフォーカスを当てた点は面白いと思いました。
ただ、携帯を変えたというお知らせが来たならば、おめでとうは届くのでは…?と思ってしまいました。

6 蝶結びした約束はほどかれて 散る散るイチョウ片翅みたい
蝶結びと散るイチョウと片翅のイメージが、響きあうようでいて像を結びきれませんでした。約束がどういうものかもわからないので、一首で表現したいことが伝わってきませんでした。

7 肩ゆらし口を結んでいる君に泣けとつぶやき胸に抱きしめ
上の句は良いのですが、下の句から動作のぎこちない説明になってしまっているのが気になりました。定型には収まっているのですが、「胸に抱きしめ」の結句が中途半端な感じがします。あと、この内容で動詞五つは多いと思いました。

8 そんなこともわかりませんがうつむいて解いているおととしの固結び
誰も彼もが知っている「そんなこと」すら自分はわからない。
解いている固結びがおととしであるということのどうしようもなさといい、良い自嘲短歌だと思います。

★9 あねもねを束ねるように妹の髪ゆるく結う春の病棟
Mたけさんではありませんが、妹短歌が好きです。好きなんです。…いや、そうではなくて。
花を扱うように、妹の髪にやさしくふれる。この歌がもつ優しい雰囲気に惹かれます。韻律もなめらかでしっとりしていますよね。
あねもねの「あね」と髪を結われている「妹」の対比もそれほど嫌味ではなく、すっと胸に落ちてきます。

10 君遺す靴下を履き結ばれぬ つま先余る晴天の朝
三句目「結ばれぬ」をどう取ればいいのかわかりませんでした。ここがなければ、意味は取れるのですが…。
君が先に逝ってしまったから結ばれないということでしょうか? いや、それとも「遺す」だから、亡くなろうとしている…?

11 ほどかれるゆびを待ちつつ結び目をつくる月日に若葉雨ふる
生きていくってそういうことだよね、と再確認するような、しっとりとした良い歌だと思います。

12 ゆっくりと回る歯車踏みつける ところで靴ひも結んでたっけ
「ゆっくりと回る歯車」で踏みつけているものにフォーカスが当たってしまっているので、どちらかというと巻き込まれていく靴ひもをもう見ていそうな気がしてしまいました。でもぞっとする歌で、なんで歯車を踏みつけているのかとか、くろぐろとした秘密がありそうで好きです。

13 キャスティング間違えられて通行人Bのまんまで終わる結末
結句の「終わる結末」がややぶっきらぼうなような気が。これでもいいと思うのですが、終わるも結末も同じことを言っているかなと思いました。

14 生きるとは結び繋げてゆく事と刻み込まれた螺旋が騒ぐ
これも動詞が多い歌ですが、この歌では、遺伝子が騒ぎ立てている感じが現れていて、一定の効果になっていると思います。

15 結んではひらく約束ほどけなくなってしまったなら手を打って
結句「手を打って」はダブルミーニングでしょうか。結句ではっとさせられる感じはするのですが、立ち止まるポイントがなかったかな、という印象です。

16 幸せになってほしいと願ってる 結んでひらいて手を振ってさようなら
下の句の字余り、八十は大胆ですね。さようならのうまできちんと入れていても投げやりっぽい感じで、これは成功していると思います。

17 靴ひもを結ぼうとしてしゃがんだら靴にひもなく ならば祈りを
「靴にひもなく」で、表記のせいなんですけど、一瞬ん?となってしまいました。靴ひもはなく、でリフレインにしても良いのではと思うのですが。ここはこだわりでしょうか。
結句のこの開き直り、きっちりと歌をまとめあげている感じがして、わたしは好きです。

18 靴ひもを結わえた後の立ちくらみ空を見上げるための口実
下の句が上の句と同じことを言っていて、言い換えまたは説明になっているという、これはよくあるパターンなんですけど、歌では説明じゃなくて表現をしないと、と思います。これは自分にも言い聞かせていますが。
あと、体言止め+体言止めになっていて、もちろん体言体言が全部だめというわけではありませんが、この歌の場合は靴ひもという地から空へと開けていく展開がとても気持ちがいいのに、体言止めでその広がりを止めてしまっている気がするので、余韻の残る終わり方にすればもっと良い歌になると思います。

19 クノールがまた溶け残る 結末はあなたの好きなようにしましょう
初句二句の気だるい感じ、からの流れに惹かれます。諦めのようでもあり、したたかさの現れのようでもあり。クノールという道具立ても素敵です。

20 1番が5番に告白したけどさ結果オーライなんじゃないこれ
下の句の呆れたようなリズムの良さがいいですね。「結果オーライ」、結という題詠の歌のなかで見るとなかなか新鮮です。

21 結ばれることはきっとないだろう真昼の月の白さが痛い
球種でいうならストレートで押してくる歌だと思いました。白さが痛いというヒリヒリした表現が魅力です。

22 ふりつもる結晶の街にことごとく不純な僕ら閉じ込められて
雪のことだと思うのですが、「ふりつもる結晶」としたことで一気に異世界のようの情景になりました。そして、純度の高い街に閉じ込められているのが不純物である僕らであるという事実にもぐっときます。

23 鑑定の結果:わたし と あなた は運命の人ではありません
記号や半角スペースをこまごまと入れることで機械っぽい音声で読ませることに成功していて、面白いと思います。
問題は「運命の人」というキーワードでしょうか。こういった慣用句というか常套的な言葉は、気をつけて使わないと一首の面白さをまるまるなくしてしまうような気がします。この歌の場合だと、上の句からの流れで結末がもう見えてしまって、裏切られることがないのが残念だと思いました。

24 「うむ」「うむ」と指を結んだら歩き出すちょうどいい距離を覚えて僕ら
「うむ」「うむ」がかわいいですね。ちょっとおかしなやり取りがこなれてきた頃なのでしょう。
二句目と四句目がどちらも字余りなので、二句目の「結んだら」は「結んで」でもよいかと思いました。

25 よく知らない人の結婚式に出てみんな知ってる歌をうたった
どこか肩身が狭いような、落ち着かない気分でいるときに、自分が知っているものがふっと現れる。妙な安心感のような感情が出ていると思います。
ただ少しパンチが足りないんですよね。あるある、で終わってしまう歌かなあ。

26 結晶は割れてしまったいつまでも拾ってないで掃いて忘れろ
「て」のリズムでの畳み掛けは面白いと思いますが、いささか動詞が多く一首としては少し重たいでしょうか。一首に動詞は3つまで、と言われることもありますね。あくまで目安ではありますが。
初句の唐突さも、何の結晶かがわからないため、生きていないような気がします。

27 結び目をほどくきみの手つめたくてわたしは生きているのだと知る
一読して、ブラジャーのホックのことかな?と思いました。
きみの手のつめたさで自分の体温を思いだす、動物的な一瞬が切り取られて面白いと思います。一首を通しての温度もどこか低めであるように感じました。

28 結論はひとつだけでは足りなくて鮮魚を買いに街へでかける
「結論」がひとつでは足りないのか、「ひとつでは足りない」というのが結論なのか。迷ってしまいました。
鮮魚を買いにというのも主体からすると必然性のある行為なのだと思いますが、いまひとつピンと来なかったです。

29 結び目をほどくかわりに恥ずかしい過去をいくつか思い出してる
結び目をほどいたら、恥ずかしい過去どころではない様々なものが噴出してしまうのでしょう。思い出すというのは、確かにガス抜きのような行為ですよね。
ただ、「恥ずかしい過去をいくつか」というのがぼんやりしてしまっているかなと。その恥ずかしい過去ってなんだろう、と思います。

30 馴染みのない部屋で目覚めたその朝も同じ手順で結ぶネクタイ
大人で、しかもどこかエロティックな香りもする歌ですね。その、馴染みのない部屋というのがどこなのか。想像が膨らみます。
かっちりとした、手堅い作りの歌だと思います。

31 ほどくべく結ばれている花束のリボンをとけば雨になります
選ぼうかどうか迷った歌です。
ただこの歌、初句二句がいらない気がしてしまったんですよね。題詠なんですけど。花束のリボン=ほどくべく結ばれている、という前提があると思うので。
わかっていることをわざわざ説明してしまうよりは、どのように結ばれているかなどに文字数を割いた方がよかったかなと思いました。

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