2012年12月11日火曜日

第4回空き地歌会 スピンオフ 評1


1 応募した覚えはないが抽選の結果わたしが生まれこのざま(木下龍也)4票


【本多響乃 評----------------------------------------------------------------------------

◆歌の構造
上の句と下の句でわけると
応募した覚えはないが抽選の/結果わたしが生まれこのざま
となる。

「応募した覚えはないが」という静かなはじまりが、
「抽選の/結果」が、上の句と下の句で分断される時点で、読者はおやおやっと思わせられる。投げ出すようにおかれた結句の「このざま」という体言止めが、この歌には憎たらしいぐらいに似合っている。

一読すっと意味が伝わり、「このざま」と言い切られることで、作者のかなしみが、ずどんと直球で届く。そして、このかなしみは、とても乾いているかなしみだと思う。おそらくそれは文体のせいだ。

◆「結」の使い方
ほかの歌が「結ぶ」からひっぱられたイメージで作られたものが多かったので、
「結果」という言葉での題詠の処理が、結果的にめだっていた。


【沼尻つた子 評】---------------------------------------------------------------------------

 精子の着床率を考えると、確かに当選率の低い抽選です。
(まだ四億インパクトが)
上句は「産んでくれなんて頼んでない」などという、
反抗期少年の老成ひねくれバージョンのようです。
自身の存在を扱いながら、他人事のように淡々とした語りが魅力。
なのに、結句の「このざま」がかなり残念。
いまの「わたし」の思わしくない状況を自虐にして〆たのでしょうが、私には後味がよくありません。
せっかく抑制していた感情が、最後に来て漏れてしまったよう。
反抗期老少年(?)としては順当すぎるセリフとも言えます。
もっと捻りのある着地がみたかったですね。
でも、やさぐれた「このざま」故にこの歌に惹かれ、共感する読者もいるかもしれません。
好みのわかれるところでしょうね。


 【倉野いち 評】---------------------------------------------------------------------------

 パッと見て、ああいいな、と思い、全部読んでやっぱりこれがいいな、と思いました。

3億、空き地的には4億分の1の抽選でしょうか。生まれる前の記憶なんてもちろんないので、応募した覚えがないのは当然ですよね。

結句「このざま」の嘲笑い感にぞくぞくきます。

ものすごい偶然によってこの世に生まれることができたのに、人生うまくいかないことばかりで、そんな自分自身をバカにしているようにも読めるし、
または「わたし」を生み出した存在(家族とか、先祖とか、なにか血のつながりのようなもの全て)に対して「生まれたのがわたしで悪かったな、ざまあみろ」と言っているようなイメージも。

漢字の多い上の句はかしこまった印象(外ヅラというか)、平仮名だらけの下の句はぶっきらぼうな本音、というバランスも面白いです。


 【高橋たまき 評】-------------------------------------------------------------------------

 ひとつひとつの言葉の選び方に無駄がなくてすごい!と感動しました。
最後までたたみかけるようなスピード感が気持ち良いです。

生まれたことを「抽選の結果」としたり、
ほとんど良い意味では使われない「このざま」で「わたし」をバッサリ切り捨てたり、と
ネガティブな要素を含んだ言葉がたくさんあるのに
なぜか全くネガティブさを感じさせない不思議なお歌だと思いました。

 一見卑下しているようにも見えるけれど、
ほんとうはもっと高いレベルへ向かうべき自身を
叱咤激励しているのではないのかな。
ネガティブの逆をいくような、そんな力強い印象を受けました。

 うまく言えませんが……
生に対しての真摯な態度、みたいなものが
「このざま」にはたくさん詰まってそうな気がしています。

 すごいなー。
好きです。

追伸
生んでなんて頼んでないしー!とリアルに言い放ち、
母とめんたいこを投げ合った実家のリビングの一部赤壁を
思いだし恥ずかしくなりました。
淡く苦くカライ思い出です。
(お歌との次元が違いすぎてごめんなさい。)
その他にも好きなお歌がいくつもありました。
どうもありがとうございました。






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